高齢の認知症の人が深夜に徘徊してしまう原因と家族がするべき対策について
夜中にふと目を覚ましたら、部屋で寝ていたおじいちゃんがいない!
そんな経験がある介護者の方は決して少なくないのではないでしょうか?
また、今は深夜に徘徊していなくても、もし突然夜中に勝手に外へ出てしまったら・・・と思うと不安でたまりませんよね。
徘徊に関するお悩みの中でも、特に多いのが深夜や夜間に起こる徘徊についてのお悩みです。
深夜だから自分も寝ていて気づけないしどうしたらいいのか・・とお悩みの方は多いのです。
この記事では深夜の徘徊でお悩みの介護者の方のために、深夜に徘徊してしまう原因と対策についてご説明いたします。
深夜の徘徊は早急に対応するべき!
認知症によって起こる徘徊の中でも深夜に徘徊してしまうケースは特に早急な対策が必要になります。
まずは、早い対応が求められる理由からご説明していきます。
交通事故などに命に関わる事故に巻き込まれやすい
真っ暗な夜道は車の運転手も視界が悪く歩行者に気づきにくく、どうしても交通事故に合う確率が高くなってしまいます。
さらに内閣府の平成26年データによると、総事故件数こそ昼間の方が多いですが事故での死亡率は夜間の方が昼間に比べて3.3倍も高くなっています。
ですので、夜間の徘徊は命に関わる事故に巻き込まれる可能性が高いといえるのです。
さらに、昼間に比べて街頭の数も少ないため徘徊しているご本人も自分が今どこを歩いているのか把握出来なくなっていることが考えられます。
そうなると、足場の悪い川や山などに入り込んでそのまま足を滑らせて・・・といった事故が起きやすくなります。
行方不明になった場合に深夜だと捜索が難しい
行方不明が発覚していざ捜索となっても、見通しの悪い夜間に捜索となれば昼間に探すより発見が難しくなり、時間がかかってしまいます。
行方不明になってから発見までに時間がかかればかかるほど、発見後の生存率はどんどん下がっていきます。
行方不明当日に保護された場合は約8割が生存して発見されますが、5日目以降は生存率0と厳しいデータもあります。
早期発見・早期保護が重要視される徘徊の捜索において、深夜の徘徊は生存率にも関わってくるのです。
介護者の負担が大きい
厚生省大臣官房統計情報部「人口動態社会経済面調査」によりますと、介護者で「睡眠不足」に悩まされている方は45.7%にものぼります。
私が勤務しているような介護施設などは夜間も職員が交代で見回りますが、在宅で介護されている方はもちろんそういったことは出来ませんよね。
何か物音がするたびに様子を見に行ったり、
外に出ようとする認知症の人をなだめに行ったり、
トイレに付き添ったり・・・
と、夜でもぐっすり眠れていない介護者の方も多いのではないでしょうか?
さらにそういった肉体的負担の他に、精神的な負担が原因で睡眠不足になってしまう方も多いようです。
どういうことかというと、
- 寝ている間に勝手に外へ出ていってしまったらどうしよう・・・
- 徘徊して事故にあってしまうかも
など、
自分の目の離したすきに徘徊が起きて事故や行方不明になってしまったら…という不安や心配によって、安心して眠ることが出来ず眠りが浅くなってしまったり、小さな音でも起きてしまったりして、結果睡眠不足に陥ってしまうのです。
睡眠不足が続くともちろん日中の活動にも悪影響を及ぼします。
イライラや倦怠感が続くことで介護者の人の健康が害されると、介護の質も当然悪くなってしまいます。
この3つの理由から、徘徊の中でも特に深夜の徘徊は、命に関わる危険が高く介護者の負担も大きいのでしっかりと対策をすることをお勧めします。
認知症の人はなぜ深夜に徘徊してしまうのか?
続いて、なぜ深夜に徘徊が起きてしまうのかその原因についてご説明していきます。
トイレへ行く間に迷ってしまう
人間ですから夜にトイレに行くことはありますよね。
ただ認知症の人の場合、トイレに行こうとしている間に、
- トイレをするという目的を忘れてしまう
- トイレまでの道順がわからなくなってしまう
といったようなことが多くあります。
そのため、そもそも自分の目的は何か探そうとしたり、トイレの場所を見つけるために徘徊してしまうのです。
体内の生活リズムがくるっている
認知症に限らず高齢になると視交叉上核(しこうさじょうかく)の働きが弱くなっていきます。
視交叉上核とは、人の目の奥に位置している神経細胞の集まりで出来ている核のことです。
この視交叉上核は生活リズムを調整する役割を持っていて、夜になったら自然と眠くなり、一定の時間が経ったら目が覚めるという睡眠と覚醒のサイクルをまわしています。
こうしたサイクルのことは専門的な用語で概日リズムと呼ばれています。
この視交叉上核が正常に働かないと、朝になっても目覚めが遅くなったり、反対に夜に寝付けなくなったりと生活リズムにずれが生じます。
生活リズムが乱れてしまうと、睡眠相後退症候群や不規則睡眠・覚醒症候群のような睡眠障害になることもあるのです。
睡眠相後退症候群は、一般的な人が眠る時間(22時〜1時)に眠ることが出来ず2時〜4時などにやっと眠りにつくことが出来ます。
眠りに入る時間が後ろにずれてしまっている状態です。
不規則睡眠・覚醒症候群は、決まった時間に睡眠することがなくなり、細切れな睡眠が不規則におこるような状態のことをいいます。
認知症になると、この視交叉上核の働きがさらに弱くなったり悪化したりするので、昼夜逆転生活になりやすいのです。
その結果、主な活動が夜間になりますので徘徊も深夜にしてしまいます。
慢性的な昼夜逆転は睡眠障害を起こしている可能性が高いので、ケアマネージャーや専門の医療機関へ相談することをオススメします。
寝室や就眠時の環境にストレスを感じている
睡眠時の環境によって、認知症の人がストレスや不安を感じることが原因で徘徊をすることも考えられます。
例えば以下の点にあてはまっていませんか?
- 部屋が快適な温度か(寒すぎたり、暑すぎたりしていないか)
- 床ずれなど起こしていないか
- 音がうるさすぎないか
- 部屋の中が明るすぎないか
- 馴染みのあるものを変えたりしていないか
最後の「馴染みのあるものを変えたりしていないか」についてもうちょっと詳しくご説明します。
認知症の人は自分に馴染みがあるものを大切にします。
馴染みを持っているものはカバンだったり枕だったり人によって様々ですが、長年使っていた寝具を変えたり、寝室の模様替えをしたことが、認知症の人のストレスになっている場合があるのです。
寝室で嫌な気持ちになったから、そこから逃げ出したい、違う場所へ行きたいという思いが行動となって徘徊してしまうのです。
夜間せん妄
せん妄とは、意識障害の一種で幻覚が見えてしまったり、大声を出すなどの興奮状態となったりします。
場合によってはまわりへ暴力行為をふるうこともあります。
こういったせん妄の症状が夕方から夜間において起こることを夜間せん妄といいます。
幻覚を見てしまったり、妄想に取り憑かれて興奮状態となった結果、徘徊が起きてしまうと考えられます。
夜間せん妄の場合、認知症の人は幻覚や妄想により不安や焦りで興奮状態に陥っていることが多いです。
徘徊している時に興奮している様子だったり、話が全く通じないような状態の場合、夜間せん妄が原因の可能性が高いです。
深夜の徘徊を軽減させる対策について
ここまで深夜に徘徊してしまう原因についてご紹介してきました。
次に、夜間に起こる徘徊を少しでも軽減させるために効果的な対策や対応についてご説明します。
まず大切なのは、深夜の徘徊が何が原因で起きているのかを確認しましょう。
例えば、夜中に家の中をうろうろしていたら、「どこに行きたいの?」「トイレに行きたかったの?」等声をかけてみましょう。
もしトイレに行く途中で迷ってしまったと教えてくれるかもしれません。
認知症の人の生活リズムや部屋での過ごし方を観察して、原因に見合った対策行うとより効果的です。
また、昼夜逆転が続いている場合は睡眠障害の場合も考えられますので、一度専門の意思の診断等を受けることをお勧めします。
日光を浴びる
朝になったらカーテンを開けて部屋の中に光を取り込んだり、朝の散歩として家の周りを歩いたりと、認知症の人が日光を浴びる時間を増やしてあげてください。
生活リズムを調整する働きを持つ視交叉上核は強い日光を感知すると信号を発信し、メラトニンとという睡眠作用があるホルモンを分泌させます。
このメラトニンは分泌されてから、大体15時間前後に睡眠を促しますので、例えば朝8:00に日光を浴びメラトニンが分泌されれば、21時〜0時頃の間に眠くなるような計算になります。
このように、認知症が原因で悪化してしまった生活リズムの崩れを正常に戻すのを目指しましょう。
徘徊の症状そのものは収まらなくても、時間帯が夜間から日中になるだけでも介護者の負担はだいぶ変わってきます。
適度な運動をする
認知症になってしまったからといって一日中部屋の中でぼーっとしているのはよくありません。
無理のない範囲で適度な運動を行いましょう。
日光を浴びるのと同様に適度な刺激は脳にも良い働きをもたらします。
例えば以下のような軽い運動に誘ってみてはどうでしょうか。
- 散歩
- ラジオ体操
- ストレッチ
- 草むしり など
認知症の人の状態を見ながら、出来る範囲で行ってください。
また、認知症の人が得意だったことや好きだったことをお願いすると、はりきってやってくれることもあります。
日曜大工や洗濯物をたたんでもらうなど、認知症の人に役割を与えてそれを達成してもらうことは脳に良い刺激になりますのでおすすめです。
介護サービスの利用
日中に活動量を増やすもう一つの方法として介護サービスの利用も検討してみてはいかがでしょうか。
ケアマネージャーの方に「昼夜逆転を治したいがどうすればいいか?」と具体的な相談を持ちかけることでそれに合わせたケアプランを提案してくれます。
病院や介護施設に通ってリハビリを受けるデイケアやデイサービスは、日帰りなので初めての方でもご利用しやすいでしょう。
一週間のショートステイを利用して昼夜逆転が治ったという例もありますので、一度介護のプロに任せてみるのも良い方法です。
トイレには迷わない工夫を
徘徊の目的が、夜中にトイレに行こうとしたのがきっかけだったり、トイレへの道順を探していたりする場合は、認知症の人がトイレへ行きやすくなる工夫をしましょう。
私たちもそうですが、暗くて視界が悪いと道を見逃してしまったり迷ったりしてしまうことってありますよね。
認知症の人は特にその影響を受けてしまうので、部屋の中が暗いと自分の居場所が認識出来なくなってしまうのです。
迷わないようにするために以下のような対応をおすすめします
- トイレまでの廊下の明かりをつけておく
- トイレのドアに大きく「トイレ」と書いた紙を貼る
また、そもそも夜中にトイレに行く回数を減らすために、眠る前にトイレまで誘導してトイレをすませてから眠ってもらうようにするのも良いでしょう。
眠りにつきやすい環境作りを行う
寝室や就眠時の環境にストレスを感じているの章でもあげた、室温や明るさなど部屋の環境について改善できるところがあれば改善していきましょう。
眠る時間に合わせて部屋を暗くすることで、認知症の人の体内時計に眠る時間であることを知らせることができます。
ただ、真っ暗な状態を怖がる認知症の人もいますので、その場合はご本人の希望を尊重してくださいね。
認知症の人と会話をしながら寄り添い、居心地の良い環境作りに努めるのも大切です。
また、眠りにつく時にそばで見守ったり手をつないであげることで安心感を与えて質の良い睡眠をしてもらいやすくなります。
徘徊防止グッズを使用する
徘徊の症状と介護者の負担のバランスを見ながら、徘徊防止グッズを利用することも選択肢の一つとしてご紹介します。
日中の徘徊であれば、介護者の人の目の届く範囲で、ある程度自由にさせていても大丈夫な場合が多いです。認知症の人のやりたいこと、行きたいところがあればなるべくそれを叶えてあげた方が、症状の軽減に効果的といわれています。
しかし、深夜となるとそうはいきません。
介護者の方は、仕事や家事など日中にも色々とやらなければいけないことが多いですよね。
そうなると夜はしっかり寝て日中に備えなければなりませんが、深夜に徘徊が起きているとそうも言ってられません。この記事の冒頭でも深夜の徘徊は命の危険に関わる可能性が高いとご説明しました。
真冬の夜に寝間着のまま外へ出てしまい朝発見された時には凍死していた‥なんて悲しい事故もあります。
深夜などどうしても介護者の方が気づくのが遅れてしまう場合は、徘徊防止鍵を使用して夜の間だけ玄関に鍵をかけておくいうのも、認知症の人の命を守るためには必要になってきます。
徘徊防止鍵についてはこちら「認知症による徘徊の予防や防止に効果的な徘徊防止グッズ【ケース別】」で詳しくご説明しています!
まとめ
深夜に徘徊してしまう原因と対策についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
深夜の徘徊にも原因がいくつか考えられますので、まずはストレスのない快適な環境作りにつとめましょう。
深夜の徘徊はそのまま放っておくと、認知症の人が命の危険に晒されたり介護者の健康が害される可能性があります。
早いうちからしっかりと対策をとるようにしましょう。
上記の対策でもなかなかおさまらない場合は、一人で抱え込んだりせず担当のケアマネージャーや主治医など信頼できる専門家に相談することもオススメします。